兜のつくり方

1994年に僕は甲冑師に弟子入りしました。そのときに制作した兜が、下の写真、戦国時代の頭形(ずなり)兜です。フォルムが、とてもカッコいいですよね!スターウォーズの「ダースベイダー」の兜は、この頭形兜を参考にデザインされたと言われています。頭形兜のつくり方は、ずいぶん前にブログにまとめて掲載しましたが、かなり前に書いたものなので、再度リライト。改めて掲載です。

前立ては、満月。こちらも手作り
自作の頭形兜


まずは、400年前の本物の兜をバラバラにして型をとり、型をとった和紙を段ボールに貼り、型紙をつくります。11のパーツに分かれました。

型紙に合わせて、鉄切りばさみを使って鉄板を切り分けていきます。これが、けっこう大変。手がマメだらけになりました。切った鉄板を型に合わせて、鉄板をたたき、鉢(ばち)の部分の形を作っていきます。つづいて、それぞれのパーツに穴をあけ、ネジで留めていきます。いい感じの形に仕上がりました。満足。

銅製の鋲(びょう)を使って、それぞれのパーツを留めていきます。前の「つば」の部分をペンチで形作り、鉢(ばち)とつなげます。鋲(びょう)は、全部で30使いました。この作業も、かなり時間がかかるし大変です。つづいて「しころ」と「吹返(ふきがえし)」をつくり、バランスをチェック。とりあえず、仮り糸で留めてみます。何となく頭形兜の形は出来上がってきました。でも、完成までには、まだまだ先は長いです。

ここで一度、全体のバランスを見ます。バランスに問題がなければ、いったん通した仮糸をカットして、塗りの準備に入ります。写真のように「しころ」の間に竹の棒を入れます。こうすると型くずれを防げるのと同時に、このあとの「塗り」の作業がしやすくなります。まずは、錆び止めを塗ります。錆び止めを塗ったらペーパーで磨いて、さらにもう一度、錆び止めを塗り、錆び止めが乾いたら、漆を塗る準備として「こくそ」(漆に木のクズや金属を混ぜたもの)を塗ります。乾くまでに1日~2日かかるので、それまで作業は少しの間、お休み。


「こくそ」が乾いたら、作業再開です。「こくそ」には木のクズや金属などの混ぜ物が入っているので、スムーズに塗るのは、なかなか難しく、どうしてもデコボコしてしまいます。そのため「こくそ」を塗って乾かしたら、ペーパーで磨き凹凸をなくします。一つ一つのパーツを丁寧に磨いていくのですが、兜の「鉢(ばち)」と「錣(しころ)」を磨くだけで、丸一日かかりました。こういう細かい仕事が、いかにキレイにできるかによって、最後の仕上がりが変わってきます。

ペーパーで磨く作業を終えた後、もう一度、「こくそ」を塗ります。塗るのにかかる時間は、1時間半~2時間。塗って、乾かして、磨いて、また塗る…という作業を7回程度繰り返します。文章に書くと、あっという間ですが、実際にやってみると気が遠くなるような作業です。

これでやっと、黒漆を塗る作業に入ることができますが、漆も「こくそ」の時と同じように、塗って、乾かして、磨くという作業を3回繰り返します。それでやっと輝きが出て、美しい仕上がりに近づいてきます。そして最後にコンパウンドを塗り、ワックスで磨きます。ここまでに、錆び止めから始まって、こくそ、漆と、トータルで17回塗り重ねています。かなり手間のかかる作業です。

磨きの作業
磨いた後
黒漆の塗りはじめ
黒漆のつや感が出ました

次に、今回は兜の「つば」の部分に赤い漆を塗りました。こうして中を赤く塗るのは、江戸時代の兜に多かったとのこと。赤く塗るのは「赤い反射で、顔が恐く見えるから」ということらしいです。そして、兜の制作を始めてから35日目。鹿革に自分の名前を書いて、兜の内側に貼りました。つづいて兜の中に布を縫いこみます。ちなみに「つば」に近い部分だけは「鹿革」です。

つばは、赤漆を塗りました
名前を書いて貼付
白い部分が鹿皮。兜の外側に見えている部分は、あとで「しころ」をつけると隠れます。

 

作業がしやすいように「しころ」を上からつって、糸でおどします。糸をおどす時には、長さやバランスをしっかり見ながら作業していきます。ちまみに、糸も自分で染めました。これで、「しころ」と「ばち」ができました。これをこの後、鋲(びょう)で留めていきます。最後に、あご紐をつけ、前だてをつけて、やっと完成です。

兜の鉢(ばち)と錣(しころ)

 

1994年6月8日に作り始めて、完成したのは9月15日。トータル148.5時間かかりました。でも、これはまだ兜だけ。このあと甲冑全体を作り上げていきます。まだまだ先は長い。